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静岡地方裁判所 平成6年(わ)335号 判決

本籍

静岡県賀茂郡東伊豆町奈良本九七九番地の四

住居

右同

遊技場経営

加藤榮次郎

大正四年一二月一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官匹田信幸並びに弁護人(私選)(主任)園田峯生及び同片岡匡敏各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金三、五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、静岡県賀茂郡東伊豆町奈良本九七九番地の四に居住し、同所において「協和遊技場」の名称で、同町稲取一、八九三番地の二の三において「さつきホール」の名称で、同郡河津町浜一四六番地の九において「ニューかわづ」の名称で、東京都大島町元町一丁目二番一号において「パチンコパーラーキョーワ大島店」の名称で、それぞれパチンコ遊技場を経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上

第一  平成二年分の実際の総所得金額が一億一、三二五万三、二〇六円であり、これに対する所得税額が五、一三三万円であったにもかかわらず、平成三年三月一一日、静岡県下田市六丁目三番二六号所在の所轄下田税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が七、一九四万五、五四五円であり、これに対する所得税額が三、〇六七万六、〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額との差額二、〇六五万四、〇〇〇円を免れた

第二  平成三年分の実際の総所得金額が一億二、九六七万四、八二六円であり、これに対する所得税額が五、九五四万三、五〇〇円であったにもかかわらず、平成四年三月六日、前記下田税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が六、八一五万一五九円であり、これに対する所得税額が二、八七八万一、五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額との差額三、〇七六万二、〇〇〇円を免れた

第三  平成四年分の実際の総所得金額が一億八、〇六四万四、〇五三円であり、これに対する所得税額が八、五〇二万五、五〇〇円であったにもかかわらず、平成五年三月五日、前記下田税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の総所得金額が八、九三六万七、四一一円であり、これに対する所得税額が三、九三八万七、〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額との差額四、五六三万八、五〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の目標)(必要に応じて証拠等関係カードの番号を各証拠の末尾に付記する。)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官(乙13)並びに大蔵事務官(一一通)(乙1ないし9、11及び12)に対する各供述調書

一  被告人を提出者とし、税理士細野淑人を作成者とする上申書(乙10)

一  加藤友明(甲36)及び西辰男(甲42)の検察官に対する各供述書

一  加藤友明(二通)(甲34及び35)、西辰男(五通)(甲37ないし41)、秋永正夫(甲43)、加藤久代(二通)(甲44及び45)、西テル子(甲46)、山本花子(甲47)、橋本健一(甲48)、橋本貴子(甲49)、小宮辰雄(二通)(甲50及び51)、堀川真一(二通)(甲52及び53)、田澤顯一(甲54)、前田清(甲55)、花嶋文雄(甲56)、山田征志(二通)(甲57及び58)、小柳津達美(甲59)、藤井満(二通)(甲60及び61)、桜井賢次(甲62)、野口英典(甲63)、佐々木良(甲64)、太田智(甲65)、村松竹彦(甲66)の大蔵事務官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一三通(甲4ないし16)

一  司法警察員作成の捜査関係事項回答書(甲31)及び「捜査関係事項照会について」と題する書面(甲32)

一  検察官作成の電話聴取書(甲33)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲1)

一  大蔵事務官作成の証明書四通(甲17ないし20)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲2)

一  大蔵事務官作成の証明書四通(甲21ないし24)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲3)

一  大蔵事務官作成の証明書四通(甲25ないし28)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、各年度ごとにそれぞれ所得税法二三八条一項に該当するところ、情状により所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択した上同法二三八条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一〇月及び罰金三、五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、静岡県賀茂郡内及び東京都大島町内でパチンコ遊技店四店を営業していた被告人が、その供述するところでは、高級老人ホームに入るための資金を貯めたいなどと考え、所得税を免れて蓄財することを企て、各店舗の責任者である次男などに指示して、売上金の一部を除外させ、除外した現金を自宅の金庫内に保管した上、借名の口座を作って預金して蓄財したり、他人に貸し付けるなどして三年間に合計九、七〇〇万円余りもの所得税を免れたという事案であって、その動機は、身勝手なものであって酌むべき点はなく、その態様も計画的で巧妙、悪質である。

いうまでもなく、この種脱税犯罪は、源泉徴収等でほぼ一〇〇パーセントの納税義務を果たしている給与所得者や、正直に納税申告を行っている誠実な納税者をして税負担に対する不公平感を醸成させ、ひいては、申告納税制度をも危うくするものであって、この点をも併せ考えると被告人の刑事責任を軽視することは許されない。

しかしながら、被告人は、本件が発覚した後は、事実を認めて国税庁の調査に協力していること、修正本税、重加算税及び延滞税等総額約二億二、〇〇〇万円が既に完納されていること、本件のほ脱率が約四九・五パーセントであること、被告人は、風俗営業法上の営業許可が被告人の一代限りのものであるため法人化の不可能な「さつきホール」を除く、三店舗を法人化した上で右三店舗の役員には就任せず、経営から手を引いていること、「さつきホール」には売上除外をすることができないとされる通称CR機を導入するなどして、今後不正を行わない旨誓っていること、その他、被告人の年齢、健康状態等弁護人の主張する事情も存する。

そこで、以上を総合考慮した上、被告人に対しては、懲役刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年及び罰金三五〇〇万円)

(裁判長裁判官 鈴木勝利 裁判官 伊藤一廣 裁判官 武藤真紀子)

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